3年以内に倒産する可能性がある危険な会社の特徴とは
会社を起業する前からよく耳にする言葉。
それが「倒産」。
「倒産」という言葉でよく見かけるのが1年以内・3年以内・10年以内など、起業から何年以内という目安をよく目にします。起業に限らず、親会社から独立した会社でも意外と経営は難しい。既存の会社でも災害や予想もつかない事態が発生するなど、会社経営は本当に難しい。上手くいってると思っていても、意外と数字が落ち始める。
そんな経験もあるでしょう。
起業を考える方、新規事業をスタートする方もチェックポイントを覚えておくと良いかもしれません。
過去、上場企業でも粉飾決算のニュースが報道されたり、大手通信会社でも有利子負債が12兆円などと企業は借金を抱えています。もちろん、借金を抱えていることが悪いという訳ではなく、会社が「倒産」する前に手を打てるかどうか?というのが問題なのです。
大企業は、本業とは別に優良子会社などを傘下に持ち、何か問題が発生した時に資産や事業を売却するリスク回避の準備を進めています。
しかし、注目しておきたいのが中小企業。
中小企業の勢いは重要でビジネスのスピード感はとても重要です。
ただしここで間違っていけないのがスピードが早すぎることで資金ショートを起こすことでしょう。数年後に倒産というケースも少なくはありません。
今回、「3年以内に倒産」という数字で落とし込んだのは、訳があります。今回は実例を交えて考えてみましょう。
中小企業が数億円規模で銀行から融資されたでは?という判断できる証拠
実際に存在する会社で見ていきます。
まずは会社の情報から。
本社 | 兵庫県 |
---|---|
事業内容 | 雑貨・服飾 |
資本金 | 1,000万 |
創業 | 12年目 |
取引銀行 | 都市銀行、地方銀行、信用銀行 |
実際にあるファッション雑貨系の会社です。
中小企業の典型的なモデル。
この会社は、商工会議所などが主催したベンチャーのプレゼンで入賞。その結果、会社を設立し3年間はネットショップのみで売上拡大を続けてきました。転機が訪れたのは、創業から4年目。
ネットショップから実店舗への挑戦を始めたのです。
もちろんこの会社は、「ネットショップ+店舗」というネットとリアルの融合で売上を拡大させていくスタイルに切り替えを行ったのです。ちなみに2017年3月末まで33店舗。2009年から出店をスタートし、たった8年で33店舗をオープンさせました。
ちなみにM&Aも一切せず、自社のみで。
ということは、
- 儲けが大幅に増加した?
- 銀行などの融資に頼った?
どちらかと考えるのが妥当でしょう。
ここでは会社規模や業態から想定すると、儲けや利益が増加したというのは考えにくい。そのため、融資に頼ったと判断するのが妥当と考えます。もちろん融資に頼ったのが悪い訳ではありません。
自社のみで出店スピードが早すぎないか?
ということを言いたいのです。
もちろん、自社のみで出店スピードを加速させることが出来るのであれば、もっとも理想的な姿で一番好ましい。しかし、人材やマネジメントが整っていない場合は、厳しい結果が待っているのはお分かりのことと思います。
出店スピードを加速すると多くの会社は業績悪化に繋がる確率が高い
出店スピードを加速は良いことですが、急激な伸びはお勧めできません。
この会社の場合、出店をスタートさせてから5年目に会社が動きます。
出店スピードを加速させた結果、失敗。
大企業でも同様ですが、出店スピードを加速させると、
- 人材難が発生
- 人材不足による業績悪化
- 出店を抑制もしくはストップ
そして、会社の立て直しに動き出すのです。
それでは、実例です。
2009年 | 2店舗出店 |
---|---|
2010年 | 1店舗出店 |
2011年 | 2店舗出店 |
2012年 | – |
2013年 | 2店舗出店 |
2014年 | 6店舗出店 |
2015年 | 7店舗出店 |
2016年 | 12店舗出店 |
2017年 | 1店舗出店 |
上記の表でわかるように2009年から2011年までは会社の規模で出店を続けていたでしょう。
しかし、2014年から出店スピードを加速。
そして、2017年にたった1店舗へ。
注目したいのは、2009年と2014年。2009年から1年に2店舗ずつ出店をスタートし、安定的に出店をしていました。しかし、2014年から出店スピードを加速させて、年間6店舗。最大12店舗も出店しているのです。
出店スピードが早すぎでしょう。
計画的に出店をしていたにも関わらず、2012年は出店なし。
一度、失敗した経験をしているにも関わらず、2014年に再度出店をスタート。3年後には出店スピードが減速しています。この理由はお分かりでしょう。出店スピードに伴う人材不足と業績不振。なぜ、出店スピードを加速させると失敗するのか。
それは、体制が整っていないからです。
- コミュニケーション不足
- ノウハウなどの共有不足
- 人材流出
会社が勢いを増すとコミュニケーション不足が発生します。すると、情報共有が不足しがちになり、不満を持った人たちが退社。自社のノウハウを持った人材が多く流出していくのです。
その結果、スタートからやり直し。
何社もこのような会社を見てきました。
ある程度の経験やノウハウが残っていれば、会社と店舗の再生は長くても半年から1年くらいでしょう。しかし、会社の経営はすぐに軌道に乗ることは難しい。
その結果を数字で検証してみます。
銀行から借り入れが出来るようになるのは、利益が計上され始めたとき
さて、経営分析をしてみましょう。
ネット通販でスタートしたA社。会社は、2005年設立、2009年に店舗を出店。このお店の年商といえば?服飾・雑貨のお店は、年商3千万くらいが平均的。
ネットショップの場合、
- 出店料は数万円程度
- 人件費は最小人数
- 経営に関連する固定費も最低限
という形で成り立つことが可能です。
つまり、平均的な売上3千万のお店なら粗利益が35%とした場合、年間利益は12百万程度がでしょう。社長と経理担当で2名で運営していた場合、固定費と給料を合わせて、年間利益はトントン若しくは黒字という経営が見えてきます。
では、A社の場合はどうだったのか?
銀行から資金調達したお金が厳しくなるタイミングを調べる
あくまで平均的な年商と利益率で考えた場合で話を進めていますが、売上が伸びてこないと資金はショートします。
では、どのタイミングでお金が厳しくなるか。
検証してみましょう。
まずは、出店するための費用。
- 出店準備旅費 100万
- 敷金や一時金 1000万
- 人材募集費用 200万
- 店舗工事一括 800万
- 商品の仕入れ 500万
- 什器や備品 500万
全部含めると、最低でも1店舗当たり3,000万は必要となります。では、1店舗当たり3000万というお金の動きで資金調達を見ていきます。
年 | 出店 | 借入金 |
---|---|---|
09年 | 2店 | 6,000万 |
10年 | 1店 | 3,000万 |
11年 | 2店 | 6,000万 |
12年 | 0店 | 0万(全額返済) |
13年 | 2店 | 6,000万 |
14年 | 6店 | 1億8,000万 |
15年 | 7店 | 2億1,000万 |
16年 | 12店 | 3億6,000万 |
17年 | 1店 | 3,000万 |
上記のように「お金の流れ」は、このようになっているでしょう。
単純に見れば、2009年借入分を2012年で完済。そして、実績を基にして2013年から2016年にかけての借り入れが可能になったのではないか?このように考えられるのです。銀行からの融資は、事業計画と返済計画がブレてはいけません。
A社の場合、出店区画(空床)を事前に計画に落とし込んだ上で融資までの交渉をしたのではないかと想定ができます。では、2017年までの累計借入額は、およそ5億から7億が想定できます。では、借入金。
いつ返済ができますか?
- 店舗を閉店したとき
- 不採算店舗の撤退
- 会社の倒産
さて、どれでしょう。
これは数字で見た場合のA社の末路です。A社(服飾・雑貨)の1店舗あたりの年商は、最大でも4千万くらい。最低なら2千万。取り扱うアイテムで違いはありますが、ザッと上記で当てはまるはずです。
お分かりのように1店舗の利益は高くありません。
ということで、赤字と想定できます。
では、なぜ2017年に出店スピードが落ちたのか?
なぜでしょう。
答えは、簡単。お金が無くなったから。
A社は、1店舗を出店するために3千万。3千万は出店にかかるコストを最大に見積もった場合。通常、この業態で坪数のお店なら、1,800万に抑えたいところです。借入を1店舗3千万としていた場合、手元資金として1千万を残す。しかし、すでに出店済みの店舗が売上計画に未達だった場合、赤字を補填するお金が必要となる。
店舗数が増えた分、補填するお金が必要なのです。
では、出店数と借入額をもう一度見てみます。
年 | 出店 | 借入金 |
---|---|---|
09年 | 2店 | 6,000万 |
10年 | 1店 | 3,000万 |
11年 | 2店 | 6,000万 |
12年 | 0店 | 0万(全額返済) |
この数字で読み取れるのは、2012年まではネットショップの利益と店舗の赤字が想定範囲内で着地していた。だからこそ、2012年は出店を止めたことで、再建が出来たと考えることが普通です。
しかし、2013年以降に失敗。
年 | 出店 | 借入金 |
---|---|---|
13年 | 2店 | 6,000万 |
14年 | 6店 | 1億8,000万 |
15年 | 7店 | 2億1,000万 |
16年 | 12店 | 3億6,000万 |
17年 | 1店 | 3,000万 |
この表を見る限り、A社が危機的な状況に陥り始めたのは、2015年頃。
2014年から2016年のたった2年間で出店したのは、25店舗。およそ7億円近くの借入をしているはずです。出店スピードを加速しても出店区画が一等地でなければ、売上が見込めません。そして、借入の返済が進みません。
年商を試算すれば、赤字のはず。
そこまで言い切れるのは、出店場所が売れないファッションビルや商業施設だから。
A社が出店した商業施設は、
- 年商300億 6店舗
- 年商200億 9店舗
- 年商100億 18店舗
圧倒的に売れない商業施設へ出店しているのです。商業施設は、年商が高い施設ほど売上が高くなります。集客力によって差が出るからです。つまり、売上と客数が比例する。だから、お店の売上も見えてくる。つまり、このA社は良い区画に出店できていない。と出店場所を見ればわかります。
そして、本題。
お金がショートするタイミングは、いつなのか?
それは、2017年8月以降。
手元資金が無ければ、2017年12月頃には会社は厳しくなるはずです。ちなみにA社の年商は公表していたので記載しておくと、
2012年 | 3億円 |
---|---|
2013年 | 3億3千円 |
2014年 | 4億5千円 |
2015年 | 5億7千円 |
2016年 | 7億6千円 |
年商としてみれば、右肩上がり。
でも1店舗当たりの売上高で見ると驚愕の事実が。
年 | 店舗数 | 1店舗当たり |
---|---|---|
2012年 | 5店 | 売上6,000万円 |
2013年 | 7店 | 売上4,700万円 |
2014年 | 13店 | 売上3,600万円 |
2015年 | 20店 | 売上2,800万円 |
2016年 | 32店 | 売上2,300万円 |
あなたが経営者ならどう見ますか?
- 店舗数が増えて、会社の年商は右肩上がり。
- 1店舗当たりの売上高は右肩下がり。
これは良い経営?危ない経営?
銀行の融資担当だったら、どう判断するでしょう。このA社に貸したお金は、戻ってくるのでしょうか?
結論。まず難しいでしょう。
2017年に入ってから、店舗が増えない理由。お分りいただけたでしょうか?ネットショップは成功したA社ですが、実店舗は失敗。という判断が出来るのです。
A社に残された会社を存続させるための再建策とは
これはすぐにでも動くべきですが。
会社を存続させるためには、
- 不採算店舗をすぐに閉鎖
- 銀行への融資を依頼
- 在庫を現金化し支払いに充当
- リストラ等で人件費の圧縮
このような手段しか残されていません。
この会社は、大々的に現金化はしていませんが、「商品全て5%Offキャンペーン」を実施していました。表向きの営業としては、売上拡大とお客さんの囲い込み施策ですが、経営面でみれば商品の現金化です。2017年7月にキャンペーンをスタートしたことを確認しましたが、すでに会社に残されたお金が減ってきているタイミングとなっているのでしょう。
A社については、観察を続けます。
さいごに
今回は、気になるお店を見つけて会社を調べていく中で発見があったことをまとめたものです。
- このお店はどのくらい売るのか?
- この業態はどのくらい売れるか?
数字は嘘をつきません。経営者なら数字に強くないといけないでしょう。数字の変化に敏感になること、そして数字をコントロールすること。これが経営者として身に付けておきたいものですね。
それでは、また。